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異種楽器対談 第25回、第26回

異種楽器対談

オーケストラのプレーヤーは大のお話好きです。楽屋、居酒屋、はたまた本番中のステージで(あ、これは聞かなかったことにしてください。)おしゃべりに夢中です。特に楽しいのは楽器のウンチク。ちょっとのぞいてみましょうか。プレーヤーならではのお話が聞けそうです。なかには少しあやしいものもあるようですが・・・

第25回、第26回 チェロの舟山式子さん、打楽器の三上恭伸さん

────チェロの舟山式子(ふなやま のりこ)さんが、打楽器の三上恭伸(みかみ やすのぶ)さんになにやら尋ねています────
──(舟山)三上さんと言えば、ブラスの人ですね。今年の(コンクールの)課題曲どうですか?
 (三上) 定期演奏聴きに来てくれる方は学生もそうだし、先生もブラス関係の方いらっしゃるからね。
──課題曲って前年度のコンクール終わると出るの?
 うん、かなり早く、たしか2月3月には出てる。今年もちゃんと指導しようと思ったので3月中から模範演奏の録音とスコアを入手してきちんと勉強しております。
──スコアも出てるの?
 うん。打楽器の鍵盤のメロディなんかも自分で暗譜して、オケの休憩時間で練習してる。
──いろんなの使うでしょ。指定楽器がない学校とかは借りてくるんでしょ?
 課題曲は吹奏楽連盟(以下吹連)が打楽器の編成をおおよそ指定して作曲家が作曲するから。
──打楽器指定あるんだ。
 必ず鍵盤入るし。作曲するにあたって、ティンパニいれなさい、大太鼓いれなさい、小太鼓いれなさい、シンバルいれなさい、トライアングルいれなさい、グロッケンいれなさい、シロフォンいれなさいって。
──決まってるんだ。
 だから一応それで作曲して、チャイムなんてのは無い学校もあるから、今年の課題曲はチャイム入ってるけど、チャイムのところはグロッケンでやってもいいですよって指定がある。
──チャイム大きいもんねぇ。
 チャイムはちゃんと吹連で備品であるから、それを回して使えるからいいけど。
──貸し出ししてくれるの?
 うん。2台か3台ある。
──打楽器は楽器運びでも苦労するもんね。
 県によって打楽器レンタルする県と自前で持って行く県とあるから。宮城県は楽器の無い学校のために大型楽器はすべてコンクールの時に吹連が用意してくれるはず。
──あ、そうなんだ。去年普門館に誘われたのに行けなくて残念だった。
 普門館のステージってオーケストラが2つ乗っちゃう大きさだから。極端な場合3つくらい乗っちゃう。
──え!そんなに大きいの?
 うん。ホールの客席の中にエスカレーターがあるの。両サイドに。
──えー?!客席にエスカレーター…。音響とかは?
 広い。
──いや、音響は…。
 …だから、広い(笑)。それでわかってよ。
──行ってみたかったけどなぁ…。
 しばらく普門館使えなくなっちゃうから。
──え、なんで?
 今年は全日本は違う所で。
──別な所に行くの?
 うん。普門館はいろいろあって大改修するから使えないらしい。いわゆる野球で言えば「甲子園」と同じで、吹奏楽の連中にとっては「普門館」が合い言葉なんだけど、もうその合い言葉が使えなくなっちゃうかもね。
──そうなんだぁ…。
 甲子園と言わないでただ全国大会って言うようなもんだね。でも5千人収容するホールはあと日本にないからね、ただでさえ券の入手が困難なのに…。
──よく行けたね。
 全日本で毎年金賞取ってる兵庫県の有名な中学校に指導に行ったら、その学校がその時だけ銅賞とっちゃって非常に残念な事があった。
──その時初めて銅賞だったの?
 ずーっと金賞取ってたの。兵庫県のその中学校は全日本のトップだったの。で、私が指導したら銅賞なっちゃって。だけどその時東京の有名高校も一緒に指導したんだけど、その学校はその時初めて金賞になったから、ちょっと面目躍如だったんだけど。銅賞の学校と金賞の学校両方指導したから非常に良い思い出になった。
──全国いろんな所に指導に行ってるんですか?
 北は青森、南は広島まで行ってます。地域によって情報も考え方も違うから面白いよ。

──仙台フィルで所有してる打楽器ってどのぐらいあるんですか?
 数えるとキリないから…。
──ティンパニは何台?今置いてあるアンティークなのは竹内君の所有だよね?
 竹内の先生の所有物。
──あ、借りてきてるの?
 うん。
──あれって1台いくらくらいするの?
 値段つけられないな。ネット販売したらひょっとしたら何百万っていくかもしれないけど、釜に穴空いてるんだよね。
──え、釜に穴開いてるの?
 うん、胴にね。釜の端っこにぶつけたかなんかで穴開いてて。この前打楽器のメンバーが手伝ってガムテープ貼って穴塞いだら音が良くなったってみんな喜んでた。結構アバウトでしょ。
──前にボレロやった時に三科さんとコジロウ(佐々木)さんが弦楽器の前でやってた時に、コジロウさんのスネアが…。
 やってるうちに楽器の調子がおかしくなって三科が繋いだやつ?
──あれは楽器がどうなっちゃったの?
 とにかく急におかしくなった。スネアの下の響き線が下がっちゃったんでしょ。
──そうそう、本番中に三科さん急にしゃがみこんで一所懸命下から直してて。リハでなんでもなかったのに本番でいきなりトラブって、ああいうことって時々あるの?
 時々あったら困るよな。めったにない。
──今まで演奏本番中の楽器のトラブルってある?
 そういう楽器のトラブルはないな。
──ないの?
 ミスのトラブルはあるけど。
──(笑)
 急に楽器の調子がおかしくなったんじゃなく、人為的な技術的なトラブルだったら三上さんが一番すごいんじゃない?
──え、なになに?
 小節数え間違ったりいろいろ。
──それは言っていいことなのか?(笑)
 楽団員全員に投票してもらったら三上さんがダントツトップでしょう!
──シンバルは大きさはどのくらい種類あるの?
 楽器はすべてセンチじゃなくてインチで測るのね。シンバルは20インチ、18インチ、16インチ、あと10インチだったかな?
──シンバルって何インチまであるの?
 普通に使うのだったら20インチかな。あと22インチもあるけどそれはめったに使わない。だいたい18インチと20インチでやっておりますので、吹奏楽の方たちも全体のレベル上がってきてるので、18インチだけじゃなく、16インチ20インチ、あと厚いの、中ぐらいの、薄いのと揃えてると、非常にいいでしょうね。あと、トライアングルも種類いっぱい持っていた方がいいですよ。タンバリンもいろいろあったほうがいいですし。
──小さいシンバル、あれはシンバルとは別の種類?
 あれはアンティーク・シンバルという特殊楽器。シンバルといっても普通のメインで使われるようなものと、特殊な効果を出すために使われるシンバル、いろいろあります。あと、チャイニーズシンバルという京劇に出て来るような音を出すものとか。あと外に反ってる楽器とか、楽器に鋲が刺してあって叩くとそれが振動するシンバルとか。叩くとその鋲が振動してジーィって余韻が。
──それって何の曲で使われるの?
 軽音楽とか現代音楽とか。うちのオーケストラだと代用品として中心部から糸通して、端っこのところに穴開いてる5円玉とか50円玉通して振動させる。
──うちの打楽器の人たちってそうやって工夫してるんだ。
 うちだけじゃなくみんなやってる。
──あ、どこでもそうなんだ。
──三上さんよくバチ作るでしょ?
 はい、私は日本全国のオーケストラからティンパニーマレットの注文があって、ちゃんと作っております。うちの竹内も俺がいなくなったらどうするんだろう。
──竹内さんのマレットも三上さんが作ってるんだ。
 すり減ったの巻いてあげてる。
──みんなできるわけじゃないんだ。
 日本でも自分で作ってるプレーヤーもいるし、世界各国で作ってる人いっぱいいるし、それをちゃんと商品にして出してる人達もいるし。
──ティンパニのマレットだけ?シロフォンとかマリンバとかのマレットは?
 やってる人いる。
──あれは別?
 そう。専門の機械とかちゃんと準備しないといけないから。
──ティンパニのマレットとはちょっと違うんだ。
 うん…シロフォンは俺専門外だから。ティンパニの場合は契約してる会社から材料仕入れて、組み立てたり巻いたりするだけ。
──材質は何?
 ヒッコリー、メープル、ラミン、竹の4種類かな、だいたい。
──叩く所は?
 コルクと木。中心がコルクとか木で周りにフェルトをかぶせる。
──それに糸を巻いて…。
 巻かない。フェルトで包んで糸で…。
──縫い付けるの?
 自分でマレットの頭のサイズ計って、フェルト切って、かぶせて絞るの。
──1本作るのにどれくらいかかるの?
 慣れてるからものの10分で済む時もあるし、失敗が付き物だからフェルト代もったいない時もあるけど。気合い入れて巻かないと途中で絞ってる時に糸切れちゃうときある。

──打楽器ってすごい種類あるよね。最近タイプライター(ルロイ・アンダーソン作曲)やらないね(笑)私凄く印象に残ってるのが、サティの…。
 あ、ペットボトルに水入れたのとか。
──そう。あと自転車の後輪クルクルさせて…。あの時すごいいろんな楽器があった。最近200回定期演奏会で、でっかかった楽器…。
 雷?サンダ-シート?
──2人の指揮者の時(仙台フィル委嘱作品「コラーゲンⅡ」)に特殊なの使ってた。
 その時使ってる楽器はみんなまともなのだった。
──あ、じゃあアルペン(リヒャルト・シュトラウス作曲)のほうか。
 アルペンの方で、サンダ-シートっていう雷の音出す楽器で、幅が5メートル高さが10メートルくらいのトタン板。あれは非常に危険な行為だったけど。
──あれ怖かったよね、ちょっとね。でも、あれってよく使うもの?そうでもない?
 あれもちゃんとレンタル専用の楽器屋から「サンダ-シート」というちゃんとした名前の楽器として借りてきたからね。
──アルペンの他にも使ってるの?
 あんまり俺わからないな、それ。
──グランドキャニオン(グローフェ作曲)で使ってるのは?
 ウィンドマシンですか?
──ああ、ウィンドマシン。使ってなかったっけか?
 ウィンドマシン使うのはドン・キホーテ(リヒャルト・シュトラウス作曲)とアルペンも使った。
──瓶を吊るした事なかった?それがサティか。大きい瓶が並んだことあったよね。
 何かの現代曲だったかもしれない。現代曲は演奏も大変だけど準備するのが大変だから。
──(笑)だいぶ前から準備してたよね。
 セッティングするだけで大変。
──種類ありすぎるもんね、打楽器。ほじくればほじくるほどいろんな打楽器があって。チャリチャリーンっていうのとか。
 ウィンドチャイムですか?
──あれ好き。
 いつでもどうぞ。そう、打楽器によっては打楽器奏者じゃなくてもセンスがある人だったらできる打楽器ってあるよね。ウィンドチャイムとか。
──でもあれたたき方間違うとチリンチリンチリンっていつまでも鳴ってるでしょ。
 あれは打楽器奏者がやってもそうなる。
──前にコジロウ(打楽器の佐々木)さんが楽器紹介でいたずらしてた楽器、カーッ!って。あれなんていう楽器?演歌でよく使う。
 ビブラ・スラップ。ビブラートするムチっていう意味。ほんとはオリジナルはワニの顎の骨なんだけど。
──あ、そうなの?
 ワニの顎と歯で、カタカタカタって。現代曲で一回使った。すごい原始的な音でおもしろいの。
──それもレンタルだったの?
 うん。
──買いましょうよー
 そんなのどうやって保管するんだよ。ワニの亡霊出てきそう。
──インテリアにもいいじゃん。
 たとえば日本の動物園でワニとか死んだらどうやって葬るんだろう。顎の骨欲しいよね。
──年令関係あるのかな。歳とって歯が抜けたら使えないよね(笑)
 ワニって歳とると歯抜けるのかな。
──一番後ろからオーケストラ眺めていろんなもの見える?
 あいつが弾いてないとかそういうの?
──(笑)
 音と同じで、ちょっとした動作っていうのがわかっちゃうね。音だけじゃなくみんなの動きにも敏感になっちゃう。
──音自体は後ろって聴こえる?
 聴こえないからかなり想像で合わせるしかないかな。
──だいたい楽譜を把握してますよね。
 曲を把握してる。ポイントがずれると大変なことになるから。
──金管楽器は比較的聴こえる?
 非常に我々打楽器の席は音がアンバランスに聴こえるところだから、まるっきり弦が聴こえない時もあるし。
──聴こえるホールもある?青年文化センターは聴こえない?
 うーん…なんて表現しようかな…。
──遠く聴こえるとか近くに聴こえるとか?
 ちゃんと聴こえるよ。でも時差はあるね、座る位置によって。青年文化センターの客席の一番後ろに座ってるお客さんを急に打楽器の所に連れてきて聴かせたらビックリするかもしれない。打楽器と金管しか聴こえないだろうし。打楽器うるさいし。曲によっては打楽器自分達の音で耳がキンキンすることもあるし。
──打楽器同士のアンサンブルってありますよね、あれって耳で聴くよりもアクションであわせるんですか?
 いや、アクションすると素人っぽくなるから、よっぽどのことじゃないかぎり。あとは阿吽の呼吸で。
──仲良いもんね、打楽器の人たち。
 なぜか宮城県のブラスのアンサンブルコンクールの最近の傾向として、変にお互い見合ってアクションで合わせる所があるから、それは我々審査員経験の連中はいつもそれを話題にして、「あれはおかしい」って言ってますので、ああいう不自然なアクションはやめましょう。
──でも自然に出て来る動きみたいなのは…。
 ただアンサンブルコンクールのときは不自然なアクションするんだけど、普通の吹奏楽のコンクールの大編成の時になったらああいうアクションしないから、あれは不思議なんだ。
──それって打楽器の話?
 いや、打楽器じゃなくて管楽器の話。
──さっきの話に戻るんだけど、青年文化センターって打楽器は大体バルコニーの下に入ってるでしょ。あれってあんまり良くないんだよね?
 良くないし、自分達の音が溜まってうるさいしね。だけど聴いてる人にはそういう苦労はわからないだろうな。
──音の印象にこだわる指揮者は前に来てとか下がってとか指定するよね。
 天井にね、アマチュアのシンバルの人が、叩いた後思いっきりシンバル上げるから、そのシンバルのぶつかった跡がけっこうある。
──えー(笑)楽器凹まないの?
 金属だから。ぶち当たる方は木だから大丈夫でしょう。
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