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異種楽器対談 第19回、第20回

異種楽器対談

オーケストラのプレーヤーは大のお話好きです。楽屋、居酒屋、はたまた本番中のステージで(あ、これは聞かなかったことにしてください。)おしゃべりに夢中です。特に楽しいのは楽器のウンチク。ちょっとのぞいてみましょうか。プレーヤーならではのお話が聞けそうです。なかには少しあやしいものもあるようですが・・・

第19回、第20回 ヴァイオリンの三塚美秋さん、オーボエの西沢澄博さん

────ヴァイオリンの三塚美秋(みつづか みあき)さんが、オーボエの西沢澄博(にしざわ きよひろ)さんになにやら尋ねています────
――(三塚)今日はコンサートでお目にかかれない道具を持ってきていただいたので、説明をしていただきましょう。まずこれはなんでしょう。
 (西沢)これはリードの材料になる葦です。葦を丸太のまま持ってきました。
――葦はどこかで栽培してるものなんですか。
 これは楽器屋さんで買うんですけれども、だいたいフランス産かイタリア産の地中海沿岸のものです。
――海とか沼に生えてるものなんですか。
 いや、畑に生えてるんです。葦畑があるんです。気候が地中海のほうがいいみたいで。日本の葦とか中国産の葦も見たことがあるんですけど、同じものを育ててもボソボソの材料になっちゃうんですよね。
――それを向こうで乾燥させなくちゃいけないとか。
 そうですね。栽培して収穫して、1年はヨーロッパで乾燥させたのが日本に入ってくるんです。
――それを縦割りかなんかにして。
 普通のカッターでいいんですけど、筒を半分に切って。
――まき割りみたいね。
 三つないし二つに割くんです。それの中にカンナをかけていくんです。(実演中)長さを合わせる道具で長さを合わせて…カンナをかけて…
――削りカス、かつおぶしみたいでおいしそう…
 ダシ出そう…(笑)
――しょうゆで煮るか…
 メンマみたい…この削ったものを半分に折るんです。
――あ、折るんだ。なるほど。
 これでやっとダブルリードになるんです。もとは1枚のものを2枚に折って。それを糸で縛ってくっついた状態のものを作って、それを切ると2枚のリードになるんです。
――これは毎日作るものなんですか。
 そうですね、毎日。けっこうみなさん、僕もそうですけど、オーボエの人の口癖は「リードがない」かもしれませんね。
――あ、そうそう言ってた!
 朝一番に会うと「リードがないんだよ」って(笑)
――音が外れたらリードのせいにできるってわけですね。
 はい(笑)それじゃダメなんですけどね、ついついしちゃう。
――毎日いいリード1枚作るとして、材料は当たりはずれがあると思うんですけど。
 それは当然ありますよね。ものによってですね。以前2キロ買ったことがあって、2キロから1枚も取れなかったことが…。
――(笑)それは 削る人が悪いのか材料が悪いのか。
  削る人が悪かったのもありますが(笑) あまりよくない材料を2キロ買っちゃったんです。
――リード作りはいつごろから?オーボエ始める人が初めからリード削っちゃうわけじゃないと思うんですよ。
 そうですよね。完成品のリードを皆さん買ってますよね。僕は父親がアマチュアでオーボエ吹いてたんで、家に道具が一通りあったんですよ。なので、リードは最初から自分で作るもんだと思ってて(笑)受験するときにリードこんなに売ってるんだってことに衝撃を受けて(笑)

――もしオーボエ吹いてなかったらやりたかった楽器は何ですか。
 ファゴットやりたい。でもファゴットって指が大変そうってイメージ。お客さまには見えなくて、吹いてる人のほうにいっぱいキーがある。なんかすごいバタバタしてる。でもやっぱりオーボエやっちゃうのかな。
――オーボエは性格的にどんな人が多いんですかね。
 わりとオーボエの人って目立ちたがり屋なんじゃないかな。でも目立ちたがり屋の人がオーボエやってる場合もあるし、楽器やっているうちにだんだん楽器がその性格を作っていくっていうのもあるかもしれないですね。神経質なところがあったりやっぱり目立ちががり屋だったり。
――神経質と言えば、ピッチ(音程)のことなんかは神経質になると思うんですけど、それは最初にピッチを合わせるだけじゃなくって最後まで思ってるもんなんですか。例えば自分が出したアー(A=ラ)を最後までキープしようとか。ピッチって熱気がこもったりして上がったり下がったりするから。

 でもあんまり我を張っても違う方向にいっちゃうんで、流れで。あんまり上がらないようにはしようと思うんですけど。一番最初にチューニングの音を出すんで、ステージに出る直前とかは袖でAの練習とかしてますよ。

――舞台に出る前に必ずやることってありますか。
 トイレに行くこと。
――(笑)特に今回のは長いので。
 なるべく気づかないようにしてるんですけどね、まぁ演奏中は集中しているんでそういうことは思わないですけど。ふとした瞬間に、あれ、僕もしかして今トイレ行きたいんじゃないかなって気づいた瞬間にはもう、その先ずっと(笑)曲が終わるまでずーっと。
――いやこんな話はお客さまに聞かれたらまずいですね(笑)
 すごいそわそわしてるオーボエのやつがいるって言われちゃう。なんかモジモジしてるよーって。
――とはいえ生理現象だからね。じゃあ舞台が終わり、一番にしたいことは何ですか。
 楽器の掃除ですかね、やっぱり。
――さっき箱の中に羽が入ってたんですけど、あれでシュッシュッって拭いて、その後どうするんですか。
 細かい穴に溜まっている水滴を、クリーニングペーパーっていう吸い取り紙を挟んで取ってあげます
――その紙は特殊な紙?
 いや、普通の油取り紙でもいいですし。そういうので水を取ってあげて。水が残っているとそこから温度差とかで楽器が割れちゃったりするんです。木なので水分には弱いので。
――そうやって丁寧に使って何年ぐらいもつものなんでしょう。
 よく聞かれるんですよ。
――でしょう。おおざっぱに考えてヴァイオリンなんかは何百年も使えるんだけど、管楽器は消耗品だっていう頭があって。
 1年に1本替える人もいるって聞いたことあるんですけど、1本を何十年も吹き続ける人もいるんで。弦楽器に比べて何でもたないのかなって言うのは、やはり水分じゃないかな。常に水分にさらされているじゃないですか、息の。どんなに丁寧に使っても木が膨らんだり縮んだりするうちに、だんだん中の形が歪んできて、それで寿命があるのかなって。
――そう言われると納得ですよね。手が湿ってる人は。
 弦楽器でもあります?
――ありますよ。汗の成分でニスが取れちゃう人と触っても全然取れない人といるみたい。指板(しばん)は指で押さえる部分と押さえない部分とでボコボコになるんで、みんなある程度で削るんです。
 平らに戻すんですね。
――どんどん削っていったら指板が薄くなるので、そしたら交換。
 弦楽器って取り替えるパーツがあって長く使えるようにできてるんですね。
――そうです、そうです。だからオーボエも金具とか取り替えれば大丈夫っていうんだったらもつだろうけど、中の木が変わるっていうんだったらダメですね。
 でも、木が変わっていくのに合わせて自分も変わって長く使うこともできるんです。
――このリード巻く糸ですが、かなり太いですね。リード巻く以外の用途で作られたものなんですか。
 どうでしょうね。ホームセンターとか行くと結構このくらいの糸とか売ってますけどね。でも別にナイロンじゃなくても絹がいいって言う人もいれば、綿がいいって言う人もいれば。糸の種類によっても音が変わる、らしいんですけどね。僕不真面目なんで試したことないんですけど。
――このピンクの糸いいなぁ。
 これはホームセンターで買った糸です。
――わたしこの間釣具屋さんでピンクの糸見つけて。
 釣具屋さんのやホームセンターで売ってる道路工事用の糸とか、あれもナイロンなんで。とても安いし。でも難点は色がド派手なものしかないんです。ショッキングピンクとか。
――そのほうが嬉しくないですか。
 人によっては色の相性というか、何色で巻くとうまくいかないんだとかあるみたいですね。
――今までに起こったずっこけ話など。
 おかしい程度から笑えないやつまでありますけど。
――誰かに聞かれたら殴られそうなのは内緒にして、例えば吹いてる途中にリードがプッと抜けちゃったりとかあります?
 あぁ、僕はそれはないですけど、そういういう思いをした人の話は聞いたことがありますよ。吹いてたら糸がゆるくて、そのままスポッて楽器からリードだけ抜けちゃって、で、そーっと見えなかったことにしてコッソリ戻して、そのまま吹き続けたっていう。自分でやっちゃったのは、掃除の羽をいつもステージに持っていくんだけど、両手がふさがってて持つとこ無いからしょうがないんで、ベルの中に突っ込んでそのままステージいって、羽抜くの忘れて吹き始めたんですけど全然音出なくて。いや、音は出るんですけどちっちゃーい音で(笑)
――あははは
 顔こんなパンパンになって吹いてんのに全然音でなくて、チョロチョロチョロって。なーんで出ないんだろうと思ったら羽が…(笑)あとリードを間違って出て行っちゃったことはあるな。ケースにいっぱい入ってて、使うのとは違うリードつけて、なんか調子悪いなと思いつつそのまま吹き続けて。
――同じ曲の中でリード替えたりってことはないんですか。
 ないですね。よっぽど特殊なことを要求されてるような時じゃないと、口に来る影響が大きくて口が追いつかないんで。同じような音程で出るものでも、口の感触はそれぞれ個体差があるので。一つの演奏会は一本のリードでいくんですけど、よっぽど曲の雰囲気が違うものとか、よっぽど使えるリードがないかっていうときは替えることもありますが。一曲の中でっていうのはないですね。怖いですし。
――クラリネットの人とか、短いのから長いのまで何管何管ってあるけど、オーボエはいわゆるイングリッシュ・ホルンと、あと何があるんですか。
 あと、オーボエ・ダモーレっていうのがあるんですけど、めったに出てこない。バッハのカンタータか、ラヴェルのボレロやるときぐらいじゃないと出てこないんじゃないかな。
――オーボエ・ダモーレと普通のと、長いコール・アングレ(イングリッシュ・ホルン)と。
  あとバス・オーボエっていうのがある。オーボエより1オクターヴ低い音が出る。めったに使わない。
――コール・アングレはどのくらい出るの。
 5度下ですね。
――ヴァイオリンでいうところのヴィオラですね。で、バス・オーボエは1オクターヴ下と。
 「惑星」(ホルスト作曲)とかで使いますね。同じ1オクターヴ下でもヘッケルフォーンっていうのがあって、それは赤くてファゴットみたいな。リードも、オーボエの人が吹くんですけど、ファゴットのリードがもうちょっと痩せたようなリードで。それはアルペンシンフォニー(リヒャルト・シュトラウス作曲)で使うんじゃないかな。だから200回定期ではお目見えすると思います。
――あら、じゃあ200回定期をお楽しみに!ということで。
 日本にも数本しかない楽器なんで。見つけてください。余談ですけど、短いのもあるんです。ミュゼットっていう。4度上で、短くてちっちゃくて、オモチャみたいな音なんですけど。それは現代音楽とかじゃないと使わないのかな。とくに意味はないというか。
――いろいろ種類があるんですね。
  でもオーボエのアンサンブルってあんまり聞かないですよね。オーボエ同士って一番性格が合わないような…
――(笑)いや、性格じゃないよ、音色じゃないかな。サックスの人なんか自分たちでばっかりやってるようなイメージがある。
 アンサンブルがいいんでしょうね。フルートもそうですし、ファゴット・アンサンブルもすごくいい。でもオーボエだけになると急にピャーッて(笑)
――確かにあんまり聞かないね。でもヴァイオリンもそれだけでっていったら音域狭いし無理かも。珍しいといえば珍しい。カルテット(弦楽四重奏)になればいくらでもあるけど。
 オケみたいにいろんな楽器があったほうが色があって面白いですよね。いろんな楽器の音の組み合わせがあって。

――ところで本年9月3日にめでたく結婚されまして、おめでとうございます!
 ありがとうございます!
――いつもだと団員が集まっておめでとうおめでとうっていう会があるんだけど、今回はみんな演奏旅行に行ってていなかったので。
 旅行のあいだにこっそり。
――どこで知り合ったんですか。
 彼女とは、学生の時に木管五重奏を組んでたんです。授業で組んだ五重奏だったんだけど、授業以外のところでもずっとやってて、その時隣に座っていたのが彼女で。フルートやってました。
――どこのご出身ですか。
 名古屋です。名古屋の人の結婚式ってすごいイメージでしょ?
――あぁ、わたしすごいイメージ持ってる。
 トラック何台分で屋根からお菓子撒いて。
――タンスにリボンかけて町内練り歩くとか。
 ってイメージだったのに、全然違う。
――あ、そうですか。
 普通に質素にやらせていただきました。
――私の友達はやっぱりトラックで練り歩いたって言ってましたよ。
 彼女の友達がタンスを個人的に買ったら、家具屋さんの配送トラックが全部出払ってて、結婚式用のトラックしかなくてそれで行ったら、近所中大騒ぎになって!
――あははは。それはおかしいね。お父さん青くなっちゃったりして。結婚して、これからどういうふうにいきたいですか。
 質素に、平和に暮らせればいいんじゃないかな。
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