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異種楽器対談 第15回、第16回

異種楽器対談

オーケストラのプレーヤーは大のお話好きです。楽屋、居酒屋、はたまた本番中のステージで(あ、これは聞かなかったことにしてください。)おしゃべりに夢中です。特に楽しいのは楽器のウンチク。ちょっとのぞいてみましょうか。プレーヤーならではのお話が聞けそうです。なかには少しあやしいものもあるようですが・・・

第15回、第16回 ヴァイオリンの竹内崇子さん、ファゴットの海野隆次さん

────ヴァイオリンの竹内崇子さんが、ファゴットの海野隆次さんになにやら尋ねています。────
──(竹内)私は初めてこんなにまじまじと近くで見たんですけど。持ってもいいですか。
(海野)どうぞ、どうぞ。重いんですよ。
──何キロぐらいあるんですか。
 何キロぐらいあるんでしょうねぇ。今度計ってみるよ。
──この素材は。木の…
 これは、楓(かえで)ですね。この筋(木目)は書いてあるやつで…
──えー!そうなんですか。それっぽくしてある。
 ほら、剥げてるところにはないでしょ。
──違う木目になってる。
 見せ掛けで…
──木目調ですね。へぇ、高級感があるような…、でも、剥げちゃう… 寿命はどのくらいですか。そんなに長くない。
 ん~、結構ね、ヴァイオリンと違って湿気を吸ってるので。どうしてもね。水分の多く付くとこがね、腐ってきちゃって。
──腐っちゃう…、たとえば。
 この下の折れ曲がってるところに水が溜まって、ここらへんの木がいつも水を吸って腐ってくんのね。一応プラスチックの管が入ってるんですけど。
──木目調の裏側で。
そう、そう、そう。木をくり貫いてプラスチックの管を入れてある。
──これは、木である必要が全く無いということですか。
 そう、プラスチックだから。
──でも、木の方がいい音がするんですか。
 そうでしょうねぇ。
──ファゴットってどれくらい前から作られてるの。
 バッハの頃からじゃないかなぁ。
──そうですよね。バッハで楽器が使われてる…
 一番原始的なやつはねぇ、フォーキーって。
──フォーキーって。
 4つのキーのやつ。(キー:指の届かない穴を押さえる仕組み。)
──今はいくつなんですか。
 親指だけでこれ全部だから。
──ここ全部親指ですか。
 1・2・3・・・10個。
──当たり前ですけど、それ見ないで当たるようになっているんですよね。
 時々間違ってるけど。
──で、4キーじゃなくて、今はいくつあるんですか。
 いくつあるんだろう…
──これもキーなんですか。
 これシのフラットなんだけど、古い楽器はシのナチュラルが無いの。
──な、無いのはどうすればよいの。
 そう、無いの。だから昔の曲には、シのナチュラルが無いの。
──へぇ、すごい!それが改良されて、今の形に。この形になったのはいつ頃なんですか。
 ん~、ベートーヴェンの後ぐらいじゃないかなぁ。大体の形は。これは、ドイツの楽器なんだけど、古い楽器の原型を留めて進化したフランスのものもあるんですよ。ほとんど廃れちゃったけど。
──同じファゴットっていう名前。
 ううん、向こうはフレンチバスーン。黒檀でできていて、真っ黒なの。
──へぇ、使いやすさは。
 もう、こっちの方が断然使い易い。向こうの楽器はシのフラットが…
──あぁ、さっきから重要ですね。
 この一番下のシのフラットもだけど、次のシのナチュラルも…。これが、あの、、、出来なくて…
──はぁ、出ない…。こんなにキー多いとメンテナンスも大変ですね。あ、この穴はキーが無い。
 直接指で押さえるから、木が腐ってきて。穴にはめてある金属の輪、取れちゃって。
──あぁ、回りも。
 だから作り直すの、自分ではんだをのっけて。お金かかるから。こんなことやる人あんまりいないけど。
──見ると、キーの間隔広そうですね。女性だと、指開くのは。
 小っちゃい子はなかなかね。
──指細いと穴埋まらなそう。
 初心者だと広げる感覚がつかめなくて、穴があいちゃう。でもこれ、まだいい方で、昔のバロックファゴットはもっと開いてるから。
──小さな楽器ってないんですか。
 遊びで作った人はいるようだけど。
──中学生でブラスバンドやっている子も。
 これ。
──体ができてからじゃないと…。さわっていいですか。開かない!あたし、だめだ!届きません。
――ファゴットって重いですよね。首が痛くなりそう。これ持ち上げて吹いてるんですか。
 ここに吊り紐みたいなものが出てて、肩にかけて。
――あの、よく吹いていらっしゃるコントラファゴットは。
 あれは、ピンが入っていて。
――あぁ、チェロみたいに。そっちのほうがかえって肩こらないですか。
 ん~、肩はこらないけど、首にくるね、なかなか。下のほうが固定されているから、自由がきかないんだよね。それに体の前に楽器があるので、前が見えないのね。
――そうなんですかぁ。じゃあ楽譜も見えない。
 そうそう。
――指揮者も…。ちょっと怒られそうなときは楽器に隠れて。
 もうちょっと改良してくれるといいんだけどね。前見えるようにしてくれればねぇ。
――吹いている海野さんは、遠くから見てると、なんか、とっても苦しそう。吹くところが高いような。
 そう、あの角度、やりにくいの。
――じゃあ、それに合わせて口をこう、持ち上げて。
 ほんと、疲れんなぁ、あれ。
――椅子高くして、お尻に座布団敷いちゃうとか。
 いろいろ高くしてるんだけどねぇ。どうも、あの、角度がねぇ。合わないんだよねぇ。
――鍵盤ハーモニカみたいなプラスチックの。
 柔らかいチューブの!いいねぇ!そうだったら楽だよね、きっと。
――指揮者見たいときはこっち。見たくないときはこっち。
 指揮者から目をそらすのにはいいんだよな。
――重そうですよね。
 うちのはねぇ、古い楽器だから、たぶん日本で一番古いと思うよ。戦前じゃない?まちがいなく戦前だよ。ドイツの方から流れてきた。うちで買ったのは15年前じゃないかな。まだそれでも軽い方だけど。
――今のはもっと重くなってるんですか。
 今のはね、もっと大きい。最低音がB(シのフラット)なのに、さらに半音低い音が出るように作ってる。本当は使わないんだけどね、下のA(ラ)なんて。
――楽譜に出てこない!
 楽譜に出てこない1個の音のためにすごく大きいの。ベルの先これからあるからねぇ。
――20センチくらい。
 そしてブェーブェーブェー、品のない音出してるの。品のよさを追求してはいけないんだ。
――低くて、耳にもちょっと入ってきにくいっていうか、音程がわかりづらい。
 うん、わかんない。自分でもよくわかんない。ブェーブェーブェーっていってるから。
――いくつに分かれてるんですか。
 あれは分かれてないの、全部で一体。
――えっ、あの大きさ、一つなんですか。分解できない。
 うん、そうだね。
――楽器の入ってる木も…箱もすごいですよね。
 たぶん日本で一番いいと思うよ。
――でも、じかに持ってませんでした?車に。海野さん、楽器裸で持ち歩いてましたよね。ほったらかしでしたよね。
 うん、しょうがないんだよ。重いから。

――ファゴットって唾抜けるとこあるんですか。
 うん、やっぱり下に溜まるので。唾抜きみたいなのは付いてないけど、まぁ、分解して。
――使う度にですか?片付ける度に?
 まぁ、時々ね。溜まっちゃうとビチョ、ビチョ、ビチョって音が鳴っちゃうから。
――わかりやすいですね。
 こっちを外して出す人もいるし、ここ全部分解して出す人もいる。
――じゃ、演奏中は。
 うん、演奏中にもやるよ。
――演奏中にもやるんですか。けっこう簡単に取り外しができちゃうんですね。でも取れないんですか。大丈夫なんですか。
 うん、だからね、気を付けないと。そう、この前、落としてたよね。だれか落としてた。スポンって。
――ファゴットを?
 うん、この間。ズドーンと。
――えっ、下が抜けちゃったんですか。
 そう、そうだね。
――海野さんはそんなことないんですか。
 落としたことはないけど、よく上はぶつけるよね。ガチーンと。
――マウスピースも見せていただいていいですか。あっ、リードだ。金管楽器じゃなかった。これは自分で作られるんですか。
 かまぼこっていう、竹を縦に3等分に割って裏側を丸いカンナで削ったもの。その表側を削っていくの。このリードの先っぽね、最初、くっついてるの。
――へぇ。
 これ、ちょん切って。
――ちょん切る。後から切る?2枚を合わせるんじゃなくて。
 元々1枚のを真ん中から折り曲げて、下を結わえてから。
――なんででしょう。2枚くっつけるのと…。
 うーん、なんか、うまく合わないんだよね。ずれちゃうんだね。たまたま片方だけだめになったのを合わせたりするんだけど、うまくいかないの。
――あぁ、そっか。糸巻いて固定しちゃってから切れば、ずれない。細かそうな作業ですね。
 うん、細かい。
――この糸の巻き方も独特ですよね。丸く毬みたいに。
 みんなそれぞれ特徴があるよね。癖があるよね。
――肩こることばっかりですね。
 そう!肩こることばっかり。でもヴァイオリンだって、なんか弾いてる姿勢は肩こりそうだよね。みんな、それぞれ、やっぱり…
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