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異種楽器対談 第23回、第24回

異種楽器対談

オーケストラのプレーヤーは大のお話好きです。楽屋、居酒屋、はたまた本番中のステージで(あ、これは聞かなかったことにしてください。)おしゃべりに夢中です。特に楽しいのは楽器のウンチク。ちょっとのぞいてみましょうか。プレーヤーならではのお話が聞けそうです。なかには少しあやしいものもあるようですが・・・

第23回、第24回 トロンボーンの山田守さん、コントラバスの諏訪部百合さん

────トロンボーンの山田守さんが、コントラバスの諏訪部百合さんになにやら尋ねています────
――(山田)コントラバスはいつからやってるんですか?
 (諏訪部)中学校の一年生です。
――どうしてコントラバスをやっているんですか?
 中学校でブラスバンド部に入って本当はかわいい楽器やりたかったんですけど、かわいいクラリネットに決まったのに、コントラバスに決まった女の子がコントラバスから脱走して。
――(笑)
 先輩たちも顔覚えてないから、しょうがないからいっぱいいるクラリネットの中から誰か来てもらうことにしましょうねってなって、先生と話し合った結果、私が一番背が大きいから行ってって頭下げられたの。まだ指使いも教わる前だったから…。
――嫌ですって言わなかったの?
 言いました。でもダメで、やめたいなと思っちゃったんだよね。あくび出て…つまんないなぁって…
――(笑)
 で、家帰って「やめようかな」って愚痴ったら、うちの父親は一回決めたことは絶対最後までやらないと怒るの。そういう教育方針なので「お前が決めて入ったんだから最後までやれ!」って。
――そこで喧嘩しなかったの?
 うちのお父さんすごい厳しいんですよ、あぁ見えて。
――おとなしそうなお父さんなのにねぇ(笑)
 一緒に野球を見に連れて行ってもらいましたよね、横浜スタジアムに。熱狂的な阪神ファンなんで。山田君はいつからですか?
――僕は中学校からです。じゃんけんして勝ったの。トロンボーン楽器が無くて一人しかダメで、じゃんけんしてくださいって言われて、負けたらユーフォニウムですって言われたんだけど、勝っちゃったんだよね。
 (笑)負けたらユーフォニウムなんだ。
――ホルンやりたかったの最初。でもホルンはずるいやつがいて、楽器買って入ってきたの。
 えーいいじゃないそれ。それずるい手って言わないんじゃない?頭良いじゃん!
――頭良いのか…で、ホルンがダメになって。楽器枠全部一人ずつだったのでかなり競争率激しかった。
 有名中学?
――全然。たいしたことない。
 マンモス中学?
――そうただ大きいだけ。だいたい当時僕らって10クラスだった。
 それ普通だった。ベビーブームで。
――でしょ。でも中学校のとき一生懸命やってなかった。高校のときも一生懸命やってなかったけど。
 なんで仕事にしたの? 
――他にやることないから。
 他に取り得がないのよね…わかる。
――なんかいろいろ大学のクラブ推薦とか貰ったけど、結局大学行っても勉強しないだろうなと思って…。
 (笑)やること無いからやってますなんて、ほかの人が聞いたら怒りださない?
――周りの人なんか小さいときからやってるのにねぇ。
 だよー。
――コントラバスの話に戻そう。コントラバスって何であんなにいろいろ大きさがあるの?
 大きさがいろいろ?
――大きかったり小さかったり、5弦だったり4弦だったりするでしょ。作る人の好み?
 うん、たぶん。
――4弦を5弦にしているのあるよね。
 マシーンね。
――あれって4弦の幅でやるの?
 4弦のヘッドの上に低いほうの弦1本伸ばして、ボタンがついてて。外すとドから始まる。
――4弦を5弦にしてあるのかと思ってた。アメリカの人、使ってること多いよね。
 多いね。楽器の大きさとか鳴りとかをそのままにしたいからって思ってそれ付けるんだけど、付ければ付けるで重みがかかるでしょ、あと張力もかかるでしょ、長くなるから。だからバランス崩れるんだって。
――よくないね。
 あんまりよくない。日本の人、あんまり使ってるところ見たことないでしょ。
――なんか知らないけどアメリカの人多いよね。ドイツの人はだいたい使ってないんだけど。
 たぶん…わかんない。なんでアメリカ多いんだろうね。やっぱり便利さを…。
――合理主義?
 じゃないかな。お国柄かなとちょっと思った。5弦にすればするで4本の感覚で習ってきたのが…。
――そうだよね。やりにくくないの?
 やりにくい。いきなりどんと広くなるし、変わったばかりのときは、押さえてる弦と弾いてる弦と違ったりして。弦4本だと左右に2・2で分かれるけど、5弦だと真ん中にも1本弦があって。すごいなぁと思って、5弦弾いてる人たちって。
――チェロとかヴァイオリンて4本じゃん?5弦だと広くなるよね。ヴィオラで5弦の人もいたけど、こんなに弦あるのにどうやって弾いてるのかなって。
 でも昔って何本でも弦張れたじゃないですか、バロックの頃って。そっちの流れだからベース(=コントラバス)は。
――あ、そうなの?
 ベースだけ全然ルーツ違うの。ヴァイオリンはヴァイオリン属、コントラバスはヴィオール属って言って。その名残りが背中がフラットだっていう、ベースって背の裏板が真っ平らなの。
――ぼよんとしてないの?
 してるのもあるけどそれはヴァイオリン属の形に真似させて、近代的でモダンにおしゃれにしたの。
――え、じゃチェロも背板真っ平ら?
 ううん。チェロはヴァイオリン属だから。ここに大きな境界線があるのよ。
――え、ヴィオラは?
 ヴァイオリン属。コントラバスだけ違う。だから調弦も違う。ヴァイオリン属は5度調弦だけどこっちは4度調弦なの。
――えっ、違うの?うわ…全部同じだと思ってた。じゃあギターは?
 下4本がコントラバスと同じ。私たちの楽器のルーツってね、自由に調弦の音変えられたの。
――変えながら弾くの?
 そう、で、弦7本とかもあったの。すごいでしょ。そのあとヴィオローネというコントラバスの本当のルーツの楽器になって。
――よくわかった。あと、なんで弓の持ち方が二通りあるの?フレンチ(手のひらが下)とジャーマン(手のひらが上)と。
  あれは絶対フレンチのほうが弦に力かかるし、機能的らしい。ということでそっちに流れた人もいるの。ただヴィオール、ヴィオローネからの流れでずーっと来ると、根本コントラバスに合う弓の流れを追ってみると、箸持ちの弓(= ジャーマン)ね。
――どう考えてもフレンチで弾いてる人よりもジャーマンで弾いてる人のほうが音が出てるような気がするんだけど。一般的に。
 音の大きさ云々じゃなくて、機能の問題だと思う。私はね。
――フランスの人とか、アメリカの人とかほとんどフレンチじゃん?
 フレンチだって音大きいよぉ!
――だってあんな大きい楽器で弓置いてるだけって感じがするのね。どっちも同じなの?
 同じじゃないと思うけど、どっちもメリット、デメリットあるから。フレンチで持ったほうが弓の先で細かいことできるような気がする。ジャーマンって先のほうで動き取れない時が…そんなこと言っちゃダメだなプロなのに…親指1本に体重乗っけるか(=ジャーマン)4本に体重乗っけるか(=フレンチ)っていう違いとしたら、どう考えたって4本乗っけたほうが機能的だし動くじゃん。
――でも結局どっちを選ぶかってのは自分の先生の決めたほうだからね。
 そう。だからこうやって持つもんだとしか覚えてないから。フレンチの持ち方、中学校のとき始めてみた。へぇ、こういうのあるんだなって思ってびっくりした。
――ピチカートするときにすぐわかるじゃん。弓が上にいくか下にいくかで。フレンチだと上でジャーマンだと下で。アメリカのオーケストラ見てるとみんな上に上がるのね。ドイツのオーケストラ見てると必ず下行くのね。ドイツの見てて慣れてるとアメリカとかフランスのとき上に上がるから、なんで上に上がるんだろうと思って不思議だった。最初演技かと。見栄えが不思議だった。
 マーチングみたいだよね。 
――そうそうそう。
――弓の毛を色変える人いるけど音には関係ないわけ?
 あーっはっはっはっ。
――だいたい黒か白じゃん。なんで今から思えば逆に黒か白だけなの?普通白だよね。古澤さん(ヴァイオリニストの古澤巌さん)だって白だよね(笑)なんで緑と赤なの?
 青と赤と…何色にもできるんだよ、色染めしてるんだもん。毛だけ売ってるのよ、その状態で、赤とか黄色とか緑とかになってて。
――じゃあまだらにもできるわけ?
 自由にできるんじゃない?あっ、阪神タイガースカラーいいじゃない。
――あ、いいねぇ。そうしろよ、親父のためにも。
 目がチカチカしそう。
――あんまり派手にすると良くないの?
 別にそんなことない、何色使ったって。
――燕尾服は黒服って決まってるじゃない?
 でもそんなこと言ったら口紅もマニキュアもダメじゃん。何したって自由だよ。何したって自由って言っても限度はあるけど。
――今までなんでなかったの、技術がなかったの?
 村上さん(当団首席)がオケに持ってきてから急に広まって。私は見たことがなかった。
――あれ衝撃的だったね、最初見たとき。
 うん。
――おもちゃかと思った。
 ところが毛の質に変わりはないらしく。
――髪の毛とおんなじなの?
 かもね。
――一回カラーリングしたら髪だと荒れたりするじゃない。それは大丈夫なの?切れやすくなる?
 馬の毛は強いのかもよ!

 コントラバスってあんまり興味のもたれる楽器ではないよね。マイナーじゃん。
――僕の中学のときコンバス無かった。昔コンバスって無かったじゃない、ブラスに。ブラスにコンバスがある意味って何?
 おぉー、良い質問ですね。自分はコンバスがブラスにあるところから始まっているから、で、しかもやりたくないって思いながらだらだら…。
――なんかね、みんなそうなの、ブラスでコンバスやってる人って。
 だってやる人いなくて回される楽器だもん。
――音聞こえないじゃん。たとえば、木管楽器だったら、低音にバスクラ入ってくるじゃん。バスクラとかあると存在感も音量もあるから木管を支えてるって言いうのがわかるけど、なんでブラスにはコンバスがいるの?
 取ってつけたようにね(笑)なんでかお教えしましょうか。なんであるんだろうって考えたこともあって、悩むのよ。そうすると、歴代の先輩たちも嫌々やってきてるわけ。
――(笑)
 それで、でも言いくるめなきゃないでしょ、私が今度脱走したら次継ぐ人いなくなるから。面白みというか、なんで必要なのかいろいろ教えられた。
――1本だったでしょ、当時。
 1本だったけど、2本、3本とどんどん増えてった。私高校の時なんか最高8本あった。
――そんないて、どうするの?
 やるんだよ、8本で!
――(ステージに)乗せるの?え、ブラスって制限無いの?
 無い。コンクールのときは、バランス考えるけど、それ以外は全員で。
――そこまでいたら存在感もあるじゃん。8本あったらうちのオケより多い。
 なんでコンバスが必要かって言うと、あの箱があること自体に意味があるの。
――叩くの?
 違う違う。太鼓と同じ。他の音が鳴ってるでしょ、その音全部吸うの、箱が。みんなの音を共鳴させることができるの。何にもしなくても響いてる。
――じゃあ箱置いときゃいいじゃん。
 そう思うよね。
――だって箱置いときゃ人数に換算されないんだからいいじゃん。
 …それは吹奏楽連盟の友達にでも言ってください。要は響き線みたいな意味合いを持ってるんだって。倍音いっぱい含む楽器でしょ、どうあっても。管楽器よりは倍音あるわけだから、そのみんなの音をより響かせて、で、自分も鳴らせば、それにみんなが乗るんじゃなくて、含ませることができる。響きとして広めることができる。だからコンバスは1個あったら1個の響きだけど、2個あると二乗の響きになる。3個あると三乗の響きになる。管楽器っていうのは1本あれば1個の音、2本だと2倍、3本だと3倍なんだけど。
――数学的だね。
 でも、それは私を離さないために先輩が言ったことかもしれない(笑) 
――でもそれがほんとだったら、ほんとに箱を作って置けばすごい効果だよね。木の箱作ってさ。
 でも箱も良い鳴りするかしないかっていうのは、楽器に限るのよ。
――じゃあコンクールのときにコンバス1本寝かして置けばかなり違うの?
 だと思うよ。なんでそう思うかっていうと、自分がオケでやってて鳴ってるもん、楽器。いっつも。だれかしら音出すと。
――共鳴箱みたいに。
 そうそう、ほんと響いてる。
――考えたこと無かったな。考えます、これから。
 考えてください(笑)
――休んでても僕らのためになってるんだなぁって。僕ら休んでいたら何の役にもなんないからね。
 絶対ある学校と無い学校じゃ、響きが違うから。聴いてみて。
――でも調弦狂ってたら、ダメなんじゃない?
 それなりにきちんとした音にしといたほうがよいと思う。コンバスもソロとかやるとき、上2本の弦しか使わないから、上2本だけ調にあってればいいやって思って弾くでしょ?やっぱり違うよ、鳴りが。下がしっちゃかめっちゃかだとバランス取れてないから、変なとこがウゴウゴ鳴ったりね。だからちゃんと合わせて出るべきだなと…ということは私がそうやって出たことあるんだろうっていうことに…。
――(笑)
 ブラスは絵的に動く楽器ってパーカッションとベースしかないんだよね。管楽器の人が動かしてもうねってるだけで、コンバス、パーカッションはそこに学校の格が目で見えるというか。
――ていうかフォーマットだからね。でもベースだいたい置物になってるからね。
 だからそういうのはやめましょうっていう感じで教えておりますけど。イーストマン(ウィンド・アンサンブル)とか聴きに行ったときとかベース1本でフレンチだったんだけどものすごいよ、聴こえて。音がでっかいだけじゃなくて響きが豊かなんだと思うけど。大きい容量の箱をいっぱいの空気を響かせることがどれだけできるかっていう。
――そういうの教えてあげたほうがいいよ。
 教えてあげてるって、だから。行ってるところには。 
――それは、お前もそうやってやめないように説得してるんじゃないの?すごく大事なんだからコントラバスって、って。
 (笑)そうだよ。そうやって言ってるよ。コンバスがうまい団体は、団体そのものがうまいんだ、って。コンバスはベースなんだから、その上でみんなを自由に歌わせてあげるのはあなたたちの仕事なんだから、って必ず言ってる。あんたたちがうまくないと、この団体はうまくならないって。
――すごいねー。(拍手)
 ご自慢君!
――自慢してるじゃん(笑)でもなんか尊敬。
 やった、じゃあ昼飯おごって。
――えぇーっ…。
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