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2019/12/23

グラズノフの『四季』の指揮に寄せて

角田鋼亮

 

私が「矢車菊」という言葉を初めて意識したのは、同題のプーランクの歌曲を知った時から。アポリネールの詩に付けられた作品ですが、その詩の中に「矢車菊」の単語は一度も現れず、内容は二十歳の若者に語りかける形で、戦争、生と死、記憶を匂わせるもの。気になって調べてみると、この「矢車菊」(原語ではBleuet)とは第一次世界大戦に出征した兵士達の間のスラングで、新入りの兵士の事を指すのだとか。アポリネールの書いたこの詩のカリグラムでの図形的なイメージと、静かな悲しみを携えた曲想のコンビネーションで、私の頭に強烈な印象を残す作品名となりました。

 

それから数年後のベルリン。語学学校で色々な花の名前を学ぶ時間がありました。そこで、一番最初に紹介されたのが「矢車菊」(Kornblume)。日本ではそこまでポピュラーではないと思うので驚きましたが、ドイツの国花との事で、その由来も合わせて教えてもらいました。インターネットでの情報で恐縮ですが、「ナポレオンがプロイセンに攻め入った時に、ベルリンを逃れたプロイセンのルイーゼ王妃は、子供達と一緒に麦畑に隠れましたが、その際王妃は王子達を慰めるために、矢車菊で花冠を作ってあげました。この中の王子の一人が後に初代ドイツ皇帝ヴィルヘルム1世となり、「矢車菊」を皇帝の紋章に決めました」。

 

グラズノフの『四季』にもこの「矢車菊」が登場し、夏の暖かい日差しの中で踊る箇所があります。なぜ日本で矢車という名前が与えられたかというと、放射上に広がる花の形がそれに見える事から。鯉のぼりの一番上につけられているものですね。グラズノフもそのメロディーにくるりと回転する音型を与えました。この花の色の鮮やかさを感じるオーケストレーションも実に見事です。

 

さて、この作品は「冬」から始まります。通常「四季」を描くとなると、春から始まって冬で終わる事が多いのですが、冷たい空気感が支配する冬から始まる事で、春への憧れが強く呼び起こされる気がします。「冬」は霜、氷、霰(雹)、雪と、雨冠の漢字が多めのラインナップ。ちょうど一月の定期演奏会なので、情景が想像しやすく、自然に曲の世界に入り込む事ができるのではないでしょうか。ハープのグリッサンドに導かれて、「春」が到来。優しい風、花、小鳥が踊ります。「夏」は矢車菊とケシ以外にも神話に登場する精霊達が現れます。「秋」は収穫祭。賑やかに曲を締めくくります。

 

とにかくこの『四季』には色々な自然が登場しますが、いわゆるプロットレス・バレエで、特定のストーリーを持ちません。しかし、だからこそ、私が「矢車菊」から勝手に詩、歴史、絵、色を感じるように、聴き手の皆さんの頭の中にも一つ一つの情景から自由な物語が広がるのではと思います。演奏会は一人一人が作るもの。各々の『四季』を作るきっかけとなれば、幸いです。

 

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