『楽団員が見る風景』第19回 ~西本幸弘に聞く第391回定期演奏会~

『楽団員が見る風景』第19回
~西本幸弘に聞く第391回定期演奏会~

 新シーズンがスタートし、次回定期演奏会の魅力に迫るこのシリーズは今回で19回目。第390回定期に引き続き、次回第391回定期でも「オール・イギリス・プログラム」をお届けします。ブリテンのヴァイオリン協奏曲でソリストを務めるのは、多賀城市出身、N響第1コンマスとして大活躍中の郷古廉さん。そして、後半にはウォルトンの交響曲第1番。今回は仙台フィル事務局の広報担当が、イギリスへの留学経験の持つコンサートマスターの西本幸弘に、現地での生活を経て感じるイギリス音楽の魅力を伺いました。
※第390回定期演奏会のプログラム冊子に掲載している『楽団員が見る風景』と同じ内容です。

―― 2か月連続でイギリスの作曲家を取り上げますが、西本さんはイギリスへの留学経験があるとか?

西本 そうなんです。もともと「コンサートマスターになりたい」という夢があって、武者修行みたいな感覚でイギリスに行きました―― というのがおおよその経緯で、実は大学院に落ちたのがきっかけなんです(笑)。どうしようかと思っていた時に海外オーディションの話をいただいて、受けてみたら道が開けたというか。向こうではディプロマを取りながら、演奏だけじゃなく英語で論文を書いたりもして、音楽と言葉の両方に向き合う時間でした。

―― そのイギリスでの経験は、実際にイギリス音楽を演奏する上でも生きていると感じますか。

西本 すごく感じますね。言語と音楽ってやっぱり結びついていて、例えば子音と母音の関係とか、言葉の並び方の感覚を当てはめていくと、フレーズの重みやニュアンスが変わってくるんです。それと同時に、イギリスって地形の起伏が少なくて景色が横に広がるし、曇りや雨の日も多い。その環境の中で生まれた音楽って、縦に強く打ち出すというより、横に自然に広がっていく感じがあると思っていて。僕はそれを「極上の中庸」と言っているんですけど、まさに今回のプログラムにも通じる感覚だと思います。

―― その中でまずはブリテンの協奏曲ですが、ソリストの郷古廉さんとの共演も楽しみです。

西本 郷古さんはすごく緻密に音楽を作る方で、最終的にはそれを情熱と一緒に音にするんですよね。冷静さと熱さが同時にあるというか。文章を読み込んで、それを自分の中で映像化していくようなプロセスを感じるヴァイオリニストで、ブリテンの音楽ともすごく相性がいいと思います。

―― 作品としての魅力はいかがでしょうか。

西本 とにかく難しい作品ですし、オーケストラとソリストの関係もすごくシビアで、チャレンジングな部分が多いんですけど、攻めている音楽の中に、どこかに温かみがあるはずなんです。そこをどう表現するかがオーケストラの腕の見せ所だと思いますし、ソリストとオーケストラがどう対話していくかにもぜひ注目していただきたいですね。

―― 後半のウォルトンの交響曲第1番についてはいかがでしょうか。

西本 ブリテンとウォルトンはどちらもエルガーの流れをくむ作曲家なんですが、方向性はかなり対照的です。ブリテンの技巧的でアカデミックな音楽に対して、ウォルトンは外向的でエネルギッシュで、聴き手を鼓舞するような力が強い。交響曲第1番も金管が活躍して、すごくダイナミックな場面が多いんですけど、その背景には当時の時代性というか、戦争に向かっていく時代の緊張感や、国としての強さや誇りを示そうとするような空気も感じられると思います。

―― 同じルーツを持ちながら、かなり違う表情を見せるのが興味深いですね。

西本 そうなんです。ただその違いの中にも、どちらにもイギリスらしさはあって、極端に振り切らないというか、どこかに“中庸”がある。そのバランス感覚が面白いところだと思います。

―― 改めて、今回の2曲を通して感じられるイギリス音楽の魅力とは何でしょうか。

西本 イギリス音楽って“スルメ”みたいなものだと思っていて、最初は「ん?」って思うかもしれないけど、後からじんわり良さが出てくる。その場で一気に盛り上がるというより、聴いた後にふと残る音楽なんですよね。イギリスって雨や曇りの日が多い国ですけど、そういう落ち着いた空気の中でこそ味わえる魅力がある。ちょうど本番は梅雨の時期でもありますし、晴れの日だけじゃなくて雨の日もいいなと思えるような感覚で聴いてもらえたら嬉しいです。騙されたと思って、ぜひ聴いてみてください。

―― 以上、雨を呼ぶ男・西本幸弘からのメッセージでした!

(取材・構成 仙台フィル事務局 広報担当 鈴木 拓海)
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