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異種楽器対談

第31回、第32回
ヴァイオリンの大友靖雅さん、クラリネットの日比野裕幸さん
ヴァイオリンの大友靖雅さんが、クラリネットの日比野裕幸さんになにやら尋ねています

大友
(大友)クラリネットは、黒檀でできてるんですよね。
日比野
(日比野)そうですね。グラナディラっていうアフリカ原産の木ですね。
大友
ヴァイオリンの指板も黒檀でできてるんだけど、同じなのかな。
日比野
 ピアノの黒鍵もそうなのかな?
大友
(木が)採れなくなってるっていうでしょう。
日比野
 ああ、最近ね。
大友
ヴァイオリンもね、大変みたい。指板を調達するのが。
日比野
 最近クラリネットでも、黒檀の屑を集めて粉砕したやつを、なんか接着剤みたいな特殊なやつで固めて棒状にしたっていう、新しい楽器が出てきてるんですよね。
大友
音違うでしょ?
日比野
 やっぱりね、振動が違うみたいですね。
大友
吹いたことあります?
日比野
 ありますよ。ちょっと普通の楽器よりも抵抗感があるっていうか、ただすごく「鳴りがいい」とかいう話も聞きますね。人それぞれですからね。気持ちの問題ではあると思いますよね、そういうのって。
大友
でもやっぱりほら、昔から、意味があってそういう材料で作ってるわけだから自然なものに越したことないでしょ。
日比野
 それは分からないですねえ…。逆に言えば、プレーヤーの鳴らせ方でいくらでも「ええっ?」っていうようなものがエラい鳴っちゃったりするじゃないですか。カール・ライスラーなんか、ある練習室で、全然響かないような場所で、吹いたら…それまで学生が吹いてて「ひどいね」って言ってたような場所がものすごく鳴ったっていう…。
大友
ああー。
日比野
 そのホール全部が鳴ってしまった、みたいな。やっぱり名プレーヤーとか…歌でもそうですよね。 ドミンゴとか、パヴァロッティなんか、びっくりするぐらい鳴りますよね。おんなじもの使っても、変わるんじゃないですかね。それは色々積み重ねもありますけど、クラリネットだったら例えばリードとか、あとはマウスピースっていう、リードを付ける台みたいなやつとか、あとは楽器本体とか、それをちょっとずつ組み合わせを工夫して、より自分が理想とするものを「ちょっと上、ちょっと上、ちょっと上」ってやってるうちに、いつの間にかすごく鳴るようになったとか…。
大友
ああ、なるほどねー。
日比野
 もちろん、最初からストライクが投げられる人もいますけどね。
大友
まあでも、楽器って何でも同じだよね。いろんなパーツによって響きが変わってきたりとか。
日比野
 まあ、どんなに鳴ったっていっても所詮、金管楽器みたいな鳴らし方は無理なんで。だったら楽器変えたほうが早いよ、みたいな感じになりますからね(笑)音の大きさを追求しても意味がないことですよね。やっぱり音色っていうかサウンドそのものとか…理想とするものはやっぱり皆、尽きないですよね。ちっちゃい音でも凄くよく響いてるとかね、大きい音であっても、圧迫感が無く、すごく透明感がある大きい音とか…言葉にすれば、いろいろね、ありますよね。尽きないですよね。
大友
クラリネットって、A(アー)管とB(ベー)管っていうのがあるでしょう? あれって、ほんとに僕、恥ずかしながら質問するんだけど、あれって、違う楽譜を見るの?
日比野
 そうですね、A管用とB管用というふうに移調してある楽譜が存在してて、「in A」っていう指定がされてれば、そのままA管で吹いて、「in B」って書いてあればB管で、「in C(ツェー)」って書いてあれば…C管っていうのもあるんですけどね、それで吹く…まあでも、場合によりますね。「in C」ってあってもB管で読み替えて吹いたりとか。A管で読み替えて吹いたり。
大友
すごいねー。
日比野
 もちろんそれはある程度訓練しますけど。「in A」でも、持ち替えられない時とか、そういう時。あとは調号がすごく、♯とか♭がものすごく多い時なんかは、逆に替えることで、半音違いますからね、B管とA管は。それで、すごく調号を減らすことが可能になったりもします。
大友
へえー。なるほどねー。
日比野
 ただ作曲家は、ある程度音色のイメージを考えて指定はしてるようなんですよね。例えば「オーボエ・ダモーレ」ってありますよね。あれなんかは、「アモール(愛)」っていう言葉から来てるんだけど、A管なんですよ、実は。で、クラリネットも実はA管で指定される曲って、そういう素敵なメロディーが多いんですよね。
大友
あー、なるほどねー。
日比野
 モーツァルトの協奏曲の第2楽章とか、五重奏曲の第2楽章とか、ラフマニノフの第2番の交響曲の第3楽章とか…。
大友
あー!うんうん。分かります。
日比野
 このあいだやったラフマニノフの第2番のピアノ協奏曲の第2楽章とか。やっぱりそういった…「愛を語る」って言ったら大げさですけど、そういうイメージに近いものがA管で指定されてるような気がしますね。意外と。で、軍楽調とか、華やかなものはB管に指定されるとか。もうちょっと華やかになるとEs(エス)クラですとか。マーラーなんかはその辺、すごく書き分けてますよね、特にマーラーは。ちょっと狂ってるような感じを出のはC管になったり。ベルリオーズの幻想交響曲の第5楽章なんかは、EsクラとC管の組み合わせだったりするんですよね。
大友
へえー。
日比野
 悪魔的なところを表現するのに、EsクラとCクラでヒステリックな感じを出してたりとか。第4楽章の最後に、「彼女」のメロディーが「ターララティーラー」ってあるんですよね、それもC管で書いてあるんですけど、要するに、断頭台の前でちょっとこう、乱れた彼女の姿が、ちょっとヒステリックな感じで書かれてて。そういったことをベルリオーズやマーラーは考えてたみたいですね。基本的にはクラリネット奏者はB管とA管をっいうのは持ってるので、それだけでなるだけやるんですけど、C管とかD管とかはやっぱり読み替えたり。
大友
でも忙しいでしょ? 持ち替えたりするとき…。
日比野
 間に合わない時、ありますね。マウスピースを外した時に、リードもポロッと取れて…。
大友
(笑)
日比野
 あーっ!!ってやってるうちに…。とか。突然A管に変わった時に、冬場なんかはA管が冷えきってるんですよね。B管一所懸命吹いてて、あったまってやっとピッチが上がったと思ったらA管に持ち替えた途端にダーッとピッチが下がっちゃって…
大友
あんまり変わんなかったりして(笑)
日比野
 エアコンとか空調がある程度ちゃんとしてないと、やっぱり辛い楽器だなって思いますね。西洋楽器ってだいたいそういう、外で(使う)っていう楽器では、あんまりないですよね。ヴァイオリンなんかもそうですよね? やっぱり湿度とか気温とか、すごい左右しますよね。
大友
B管で指定のやつを間違ってA管で吹き始めたなんていうことは?
日比野
 ああー(笑)。うーん、はい…(笑)
大友
もし、万一そうなった時っていうのは、咄嗟に…。
日比野
 咄嗟に読み替えて、大崩壊することもある(笑)
大友
(笑)
日比野
 なるだけそれは本番では起こらないように、リハーサルで、そういう失敗はやりますけど。本番でやったらもう…どうしましょうね? やっぱりそういう失敗談は聞きますね。思い込みでね、やっちゃうってことはありますよね。
大友
でもやっぱり、すごいなって思う。僕らは記号ひとつしか無いから。
日比野
 絶対音感とかね、ありますけど、クラリネットの人はね、あまり…無いほうが好ましいと言われてますね。
大友
でしょうね。
日比野
 (絶対音感が)ある人もいますよ、もちろん。それでいちいち楽譜を読み替えて、チェンジしながら吹いてる人もいますし、すっごい苦労してるみたい。私はラッキーなことに全く無いんです。
大友
「英雄の生涯」で、セカンド・ヴァイオリンがね、曲の途中で半音ベース音を下げるんだけど、あれ、ほんの数小節なんだけど、やっぱりそれでも大変。書いてる音と出てくる音が違うでしょう? どうしたもんかなって(笑)そんなに複雑なこと弾いてるわけでもないんだけど、やっぱりあそこを弾くたんびにね、「ほんとに合ってんのかな?」って、気持ち悪くなっちゃう。
日比野
 羨ましいですね。
大友
(笑)
日比野
 「気持ち悪い」ってのが、あんまり無いですね。そういった意味では。
大友
だって、長い間そういう作業を繰り返してるでしょ。僕らはもう、そういうことは…この曲弾く時以外はまず無いから。
日比野
 小さい時そういう音感教育受けて、絶対音ちゃんとついてた人がクラリネットを始めたら、絶対音感が無くなったって。ま、そこで無くせるっていうところもすごい天才な人だと思うんですけど。そこで、チェンジできるように順応しちゃえる。人間もある程度、慣れがありますからね。ヴァイオリンの人も、古楽器なんかは殆ど、半音低いじゃないですか。それも慣れて、やっぱりできるようになるんじゃないですか。体調によっても半音変わったりしません?
大友
いや、僕はそんなに、厳密にある方じゃないから。昔の録音なんか聴くと、回転数が適当っていうか、それこそ半音高く聴こえたりするでしょう。
日比野
 そうですね、ありますね。
大友
あれでも充分心地よく聴ける方だから(笑)。
日比野
 二日酔いで、「半音違って聴こえる」って泣いてる人、たまにいますけどね…。
大友
(笑)
日比野
 「どうしても自分の音が半音低く聴こえる」って。そこまで飲んだかって感じですけど。
大友
あとほら、日比野さん今ユニオンの代表やってるでしょう。で、リハーサルもそうだけど、本番前に色々こう、突発的に、解決しなきゃならないことって沢山あるじゃない。僕も何年間か経験があるんだけど、特に本番の前に音楽以外のプレッシャーを背負ってステージに立つってすごく辛いことだと思うんだけど、そういう時の自分の解決法っていうのは?
日比野
 でも皆さん、ありますよね。家庭で…奥さんと喧嘩して、とかね。
大友
(笑)
日比野
 色々ね、ありますけど、いざステージに上がって始まったら、忘れちゃいません? ずーっとウジウジ考えて、引きずって…それが逆にこう、音楽に憂いを与えて…っていう芸術家も山ほどいますし、泣きながら演奏してる人もいますが。
大友
(笑)
日比野
 嬉しい時はそうなるでしょうし。そういった気持ち、テンションが、やっぱり影響するのはしょうがないと思いますけど、意外とね、僕順応性があるみたいで、悲しい曲やれば悲しくなっちゃうし。俳優なんかもそうですよね。色んなことあっても役にスッと入るっていうか。それぐらい憑依してやれれば最高でしょうけどね。なかなかそこまでの芸術家では、残念ながら僕もなさそうなので…(笑)でも、色んなことあっても…大丈夫じゃないですか?
大友
(笑)おれ結構、影響するなあ。
日比野
 影響しますか?
大友
うん(笑)
日比野
 やっぱりステージ上でね、色々なハプニングが起こると、それは自分にもすごい影響しますし、自分もハプニング起こしちゃうほうなんで(笑)、やっぱりその辺はね、お互いに影響は起こす時は起きますけどね。バックステージのハプニングは、考えないようにしてる。
大友
まあでも、それが一番だもんねえ。
日比野
 逆に本番前とかは、あんまり僕は楽器のことを考え過ぎないようにしてますね。他のことを考えて、で、パッって切り替えたほうが、楽だったりします。ずーっと、どうしようどうしようって考えてる時のほうが、却って萎縮しちゃって。うまくいかないっていうのはありますね。
大友
荒川静香さんみたいな?メダル取る演技の前に、好きなCD聴いてたっていう。
日比野
 そうそうそう。
日比野
 青年文化センターのコンサートホールで、練習の後にリードとか楽器の調整とか音出しをして…ホールで音を出して、手応えがつかめるじゃないですか、毎回。それはすごく勉強になりますね。気候とか、お客さまが入ったりとかでも違いますけど。やっぱり家で練習をやってるのと、本番会場でやってるのでは、根本的に違いますね。
大友
音を出す緊張感っていうか、気持ちが違うんでしょ。同じ楽器を同じように構えて弾いてるんだけど、音を出すっていう気持ちがまるで違うんですよ、家で練習する時とは。
日比野
 楽器のメンテナンスでね、どういう音とかって言いますけど、最後はそこの、ホールで響きが全て決まっちゃうわけじゃないですか。自分の技術的な色んなことをやってても、全員でオーケストラでプレゼンテーションする時に、そのホールでどこまでできあがっているのかっていう…本当のサウンド全てが。まあ、ある程度指揮者の仕事でもあったりはするんですけど、我々自身も手応えをいつも感じながら演奏していれば…素敵なホールで、そこでまたずっと練習できるっていうことは、もう、最高の理想ですよねえ。そのホールが、いいホールであればあるほど。ウィーンフィルなんかはやっぱり、ムジークフェラインっていう場所で…素晴らしいホールなんですけども。実際にちゃんと音を出してリハーサルして。そのホールが作った、ムジークフェラインが作ったウィーンフィルのサウンドっていうのがあるんですね。
大友
うんうん。
日比野
 ウィーンフィル自体がもちろんいい音するんですけど、その、ホールが明らかに作ってるっていうところに、僕はすごく共感しましたね。
大友
昔よく、「ホールはオーケストラの楽器の一部です」とか「第二の楽器です」なんてキャッチフレーズがよく出てたけど、そういう意味では楽器の一部だよね。
日比野
 楽器そのものですよね。
大友
ホールに入ってるから「オーケストラ」って言うんで。人が集まってるから「オーケストラ」じゃなくて。あのボックスの中で演奏して、その出てきた音そのものが「オーケストラ」だから。
日比野
 本番前に違うホールでやってるってことは、本番は違う楽器で演奏してるっていうのと全く同じですね。
大友
そうだよねえ。
日比野
 その辺はでも、全国見渡してもやっぱり、難しいことですよね。
大友
でも長い間やってるから、青年文化センターでは多分、仙台フィルが一番いい音するって信じたいけど。隅々まで、ほんとにそのホールの細部まで知ってる音楽集団が、そのホールを使い切るっていうことがそのホールにとって一番いい使用方法だと思うんですけど。なかなかね、日本ってそういうところ少ないから。
日比野
 ホールがあるんだけど、オーケストラが無い町とか。
大友
うん、いっぱいあるよね。
日比野
 でもそれは…いっぺんにそこまでお金が回るというわけにはいきませんよね(笑)歴史的に言ったら、ヨーロッパなんかやっぱり、王様の趣味から始まってるんで、当然のように、バーンと…できあがるっていう形ですけどね。やっぱりこう、みんなで「じゃあ、そうしましょう」っていう意見を吸い上げて作っていくっていうのはものすごいエネルギーですから、それは。
大友
いつもこの話になると話すけど、単にホールがあって、興行的に成り立つ、成り立たないじゃなくて、その地域が、ひいては町全体が、そこにそのホールがあるっていうことによって、別な活性を生み出すっていうところに一番大きな意味があるんじゃないかと思うんだけど。そのことを分かってもらうのって、なかなか難しいと思いますよ。
大友
せっかく大阪来たし(大阪センチュリー交響楽団との合同演奏会)、交流とか…どっか行きました?昨日。
日比野
 昨日さっそく、クラリネットのセクションで、食いだおれに行きました。
大友
(笑)クラリネットの人たちって、似たような雰囲気の人が多いの?
日比野
 うちの3人は真面目ですよ。
大友
そうね。見かけ、そうだけど。みんな適当に、あれでしょ? 謳歌してるでしょ、人生(笑)
日比野
 えーと、けっこうあのー、あんまり深入りしないで…独自の世界でやってるような形で、それがいい感じで…。
大友
昨日は? だいぶん盛り上がりました?
日比野
 昨日は…。まあ意外と。クラリネットって普通、暗い宴会なんですよ。まあそれは僕のキャラクターなのかもしれないけど。
大友
(笑)そんなことはないでしょう。
日比野
 けっこう昨日は面白かったなあ。楽しかったですよ。センチュリーのクラリネットの人も素敵な人たちで、一人は若くて有望な方ですし、一人はすごくベテランで味のある人で。…クラリネットの話題は意外としなかったな。あ、ちょっとしたか。楽器オタクな部分はありますからね、お互いに。
大友
金管の飲み会ってなんか、割と華々しいっていうかね。体育会系のノリでバアッとやるのかなっていうイメージが僕はあるね。だから木管の人たちの飲み会ってどういうふうになるのかなって。参加したことないから。
日比野
 まあいろいろ、セクションによって違いますねえ。けっこう、オーボエの宴会がね、面白いんですよ。
大友
(笑)えっ、どういう意味で?
日比野
 普段、やっぱりこうリードでチマチマやってるわりには、いざそういう所に行くと、はじけちゃってる人が多いような.…。
大友
(笑)それ、普段神経使い過ぎて、壊れちゃうんじゃない(笑)
日比野
 その辺、クラリネットは、楽器も宴会もけっこう、「普通」の延長線上にあるような。あんまり、はじけるといけない楽器なんですよ。
大友
あー、なるほどねー。
日比野
 あのー、すごいはじけて、ガーッって燃えて吹いちゃうと、リードミスっていう事件が起こるんですよね、クラリネットは。
大友
「キャーッ!」ってやつね。
日比野
 よく他の楽器も(音が)裏返ったりはしてるんですけど…ヴァイオリンもよくありますよね、裏返るのとか。でも倍音がね、綺麗にはまってたりとかするんだけど、クラリネットはとんでもない倍音になっちゃったりするんで(笑)。それでものすごい、恥ずかしく目立っちゃうんで。そこら辺、やっぱり用心する癖がついてるかもしれないです。
大友
でもあれ、演奏する時ってやっぱり、コントロールっていうか、けっこう神経使ってやるの? あんまり吹き込まないように、とか。
日比野
 そうですね、楽器そのもののキャパシティは決まってますからね。
大友
まあそれはね。弦でもおんなじだけど。「鳴らしてやるう!」なんてやると「ひゃああっ」とかってひっくり返っちゃったり(笑)。
日比野
 (笑)それはリードにしても、仕掛けの具合によっても毎回違いますから、油断するとやっぱり、怖いことになるのは確かですよね。いつもね、「節制」っていうか、節度をもってるんですよ。だから飲んでても節度を…。
大友
ほんとかなあ(笑)それ、現場見てみたいな。すっごい馬鹿騒ぎだったりして(笑)

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